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ココイチでナンパしてきたおっさんにエスティマをもらった話

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2007年6月。ぼくは新潟に居た。

 

なんでこんなクソどうでもいい場所に居たのか。それは、鍼灸師の国家資格を取得した春、移住先の沖縄を目指すべく、故郷の名古屋からバイクで日本一周をしていたからだ。

 

(詳しい経緯はプロフィールをみてください)

 

旅してるジブンに酔いながらも、早く憧れの沖縄に到着したくてたまらなかった当時のおれ。そもそも寒いのが嫌いすぎて沖縄に住むことを決めたくらいだから、東北のどうでもよさは格別で、新潟の観光地をオールスルーしたあげくココイチでチーズカレー(400g)を食っていた。

 

カウンターの隅っこでトマトアスパラカレーを食っていた60代とみえるおっさんの存在が一瞬気になりつつも、特に気に留めることもなく、完食アンド退店。

 

めんどい日本海側南下を再開すべく、いやいやバイクにまたがる。すると、先ほどのおっさんが店から出てきて話しかけてきた。トマトアスパラカレーを頼むくらいだから、ちょっとオモロイ人だろうなくらいに思っていたけど、その予想があまりにも浅はかだったことを思い知る。

 

 「あ、にーちゃん名古屋から来てるんか?オレは昔モトクロスの選手だったんだよ。んでな、顎の骨折って引退してな、そんでな・・・」

 

ここから約40分、おっさんの独占トークショー。

 

最近のいい加減な政治家の話、女房に死なれた話、東京に住むフィリピン人の彼女の話など、話題が多岐にわたるおっさん。相槌を打ちながらも、カレーに入れるアスパラがおいしいのか気になって話に集中できないおれ。

 

40分話してわかったおっさんの素性

久保守、60歳。東京浅草生まれ。自称元モトクロス日本代表選手。生前の奥様と旅行で何度も訪れていたこの地、新潟県糸魚川市に単身移住する。東京に35階建てのマンションを所有しているだとか、運送会社の元社長だとか、胡散臭い発言が多い。

 

一軒家の2階を月33,000円で間借りしているずうずうしい男で、どうやら2つ3つのバイトを掛け持ちして生計を立てているようだった。趣味は釣り。竹を割ったような性格。一番大切にしている宝物はNICONのカメラ。嫌いなものは酒と納豆。

 

お持ち帰りされたまま4連泊するハメに

愛想笑いで相槌を打つことしかできない無抵抗のおれに対して、おっさんはさらに追い討ちをかける。「とりあえず風呂行くぞ。そして、今日はおれんちに泊まれ。」それに対して、おれはほぼ反射的にこう答えた。「いーんすか?あざす!」と。

 

ぼくが反射的に答えたのはワケがある。

 

それは、この旅に出る直前まで修行していたクソ厳格な指圧治療院で、一番下っ端だった修行僧のおれに許された発言ワードが次の4種類だけだったからだ。

  • 先生の発言に対して→「まじっすか」or「そうっすね」
  • 酒か食物を与えられたとき→「頂いちゃっていんすか?」
  • それ以外→「あざす!」

「遠慮」「辞退」「拒絶」が一切許されなかったおれに、兄弟子たちはいつも言っていた。「全ての厚意は、受け取ってから悩め。」と。

 

これらのワードがもはや体の一部になっていた当時のおれは、なんの疑いもなくおっさんにホイホイと付いてった。そして、だいぶ寂しがり屋のおっさんとのスリリングな共同生活が始まったのだ。まさか4泊5日の長丁場になるとは思っていなかったが。

 

おっさんの攻略法がみつかる

おれが泊まりに来たということで、昼も夜も仕事を放棄したおっさんは、ぼくをいろんなところに連れ回した。銭湯、銀行、スーパー、中古車屋、などなど。とにかく24時間一緒だったので、2日目の昼くらいには、おれなりにおっさん攻略法を編み出していた。

 

その攻略法とは、おっさんから強く勧められたものを、傷つけずに断る裏技。2日目の夜、人前で歌を唄うことができなかったぼくを、おっさんはスナックへ誘い出した。「オイ、ひろき。スナックで唄いにいくぞ!」と、こんな調子で。別に頼んで滞在させてもらってるんでもないし、夜はゆっくり寝たかった。

 

そこで、一言目には「あー、ぼく唄うの苦手なんで、無理っすねー!」と返事をするも、おっさんは「なんでだよ!」と憤慨する。しかし、ここからが裏技。おっさんが納豆嫌いであることを逆手にとって、「守さんの納豆と同じぐらい嫌いなんすよ。」と言うと、「・・・わかる、わかるよひろき。」と引き下がることが判明。それからというもの、この裏技を駆使しておっさんの様々な無茶振りをかわすことができた。

 

ツッコミの鋭い読者なら、「修行時代の断らない精神はどうしたんだよ!」とお思いの方もいらっしゃるだろう。そこなんです、末っ子のズルいところは。

 

おっさん流レシピの数々

東京にマンションを所有している発言をしていたおっさんの食生活は、なかなか質素なものだった。食材の入ったクーラーボックスを「冷蔵庫」と呼び、味噌汁に生野菜サラダを投入したものを「野菜スープ」と呼ぶ。室内のBGMはスティービーワンダー。「おれはこれしか聴かねぇんだよ」と言い放った10分後、ちゃっかりCDを吉田拓郎にチェンジしてる現場を目の当たりにした時は、悪い方の意味で鳥肌が立った。

 

また、おっさんは「日本一美味いラーメン」と豪語していた「うまいっしょ」の残り汁に豆板醤を入れたものを「コチュジャンスープ」と呼んでいた。滞在した5日間で3回飲まされた時には、おれまで「コチュジャンスープ」と呼んでいた。「こち」と打っただけで変換候補に現れるようになった今、おっさんがどこかで見守っている気がしてならない。

 

また、おっさんが「久保守特製カレー」と呼んでいたものがある。「水を入れない」がコンセプトの本品は、おれとおっさんの共同作業が大切なポイント。まず、おれが野菜の煮立つ鍋の様子をみて、「守さん、水分足りません!」と報告する。すると、おっさんが「はい水分投入。」といって、無表情でトマト、ナス、たまねぎなどを素手で潰して淡々と追加投入するという流れ。今思えば、このときがトマトアスパラカレーが美味いのか尋ねる絶好のチャンスだったが、引っ込み思案のぼくにそれはできなかった。

 

この特製カレーは、5日間の滞在中で唯一心底美味いと言える料理だった。おっさん曰く、誰に食べさせても「やっぱり守さんのカレーが一番美味い」と言わしめるカレーらしい。2階を間借りしている分際で、いろんな知り合いを日常的に連れ込んでいるおっさんを想像したら、なんだか無性に腹が立ってきた。

 

おっさん宅の特別ルール 

出会った瞬間からいきなり40分の長話を聞かされたおれは、ある法則を発見した。

 

その法則とは、おっさんが「これだけは覚えておけよ。」というワードを発した瞬間、全然「だけ」では済まされず、その話題で少なくとも30分は相槌を打つことを覚悟しなければならない、というモノだ。

 

2日目の夜も、男の生き様や、女の取り扱い方法について、内容盛りだくさんの講義があり、おれはヘトヘトに疲れていた。朝5時起きのおっさんは、夜寝るのが早いことがせめてもの救い。夜10時頃に講義が終了し、ようやく寝る時間になった。

 

トイレを済ませて、ようやく寝室にあてがわれた和室に移動して、即消灯アンド即就寝。すると数分後、まもなく寝落ちするスレスレのラインで、ふすまが乱暴に開いておっさんは静かに言い放った。

 

「ひろき、これだけは覚えとけよ・・・」

 

ふええ!!居残り授業!?睡眠学習!?

 

「小便流すのは2回に1回にしろ・・・」

 

突然すぎる記念品エスティマの贈呈 

おっさんは元レーサーだったからか、車に対する造詣が深い。それも数十万で買えるようなクソ安い中古車が好きらしく、滞在中、ずうずうしく中古車屋に入っては、ふてぶてしい態度で店員に絡んでいた。そして、ふらっと寄ったコンビニでおでんを買うような感覚で、店内の車をしげしげと眺め回し、15分後にはパジェロミニを即買いしていた。

 

「今乗ってるエスティマどーするんだろう。」といらん心配をしていたおれの心を察知したかのように、おっさんはポーンと鍵を手渡してきた。「このエスティマ古いからよ、おまえにやるよ。沖縄に住むんだろ?鍵だけ渡しといてやるから、この車を維持できるくらい生活が安定したら、取りに来いよ。」

 

ぼくが反射的に「頂いちゃっていんすか?あざす!」と答えたのは言うまでもない。そのときのおっさんは、光り輝いてみえただけではなかった。クーラーボックスを「冷蔵庫」と呼んでいたおっさんを密かに見下していたことを申し訳なく思った。何度注意されても小便を1回に1回流していたことを土下座して謝ろうと思った。おれは涙を流して鍵を握りしめ、新潟をあとにした。

 

おれとおっさんのその後

月日が経つのは早いモンで、おっさんと出会ってから間もなく10年になろうとしている。おれとおっさんが出会ったのは、あのクリエイティブな5日間が最初で最後。しかし、おっさんからはコンスタントに数年に一度ペースで電話がかかってくる。

 

東日本大震災のときは、すでに高台に引っ越していたから無敵だったと豪快に笑っていたおっさん。「おまえの親と話したい」と言って、おれの父親に電話でおれのことをたくさん褒めてくれたおっさん。5年前の電話で「おまえのエスティマ、知り合いに乗せたら事故っちまってよぉ、廃車だっちゃ!」と言われた時は少しせつない気分になったけど、今おれはひたすらにおっさんと話したい。

 

たくさんの困難を乗り越えて、移住した東北の地でたくましくやっているおっさんの気持ち。あれから10年経験を積んだ今のおれなら、少しは共有できるかもしれない。10年間こっちから電話したことは一度もないから、急に電話してビックリさせてみようかな。そして、開口一番、10年越しに想いをぶつけてやるんだ。

 

「トマトアスパラカレー、美味かったけ?」って。

 

▼旅の記事はこちらだよ。